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「幸せにゲームを楽しむ」ためのスマホとの付き合い方

スマホが手放せない、ゲームをしていないとイライラするといった依存症に苦しむ人は増えるばかりです。近年では深刻な社会問題となっています。

私たちがスマホやゲームと上手に付き合っていくためには、どうすればいいのでしょうか。北星学園大学で臨床心理学・児童青年精神医学を研究されている佐藤祐基先生から、「幸せにゲームを楽しむ」ためのヒントをいただきましょう。

佐藤 祐基(さとう・ゆうき)
佐藤祐基先生のプロフィール画像

Ⓒ写真工房ピクセル・グラフィックス


北星学園大学 社会福祉学部 福祉心理学科 准教授。北海道大学大学院 保健科学院 保健科学専攻 博士課程修了 博士(保健科学)。臨床心理士・公認心理師。

研究分野は臨床心理学、児童青年精神医学。北海道児童青年精神保健学会 理事。これまで札幌市のスクールカウンセラー、北海道立教育研究所 いじめ電話相談員なども務めた。

生活に入り込み依存を招く?スマホが持つ特性

ーインターネット依存やスマートフォンの依存に陥ると、どうなるでしょうか?

「インターネット依存」と「スマートフォン依存」は、どちらも長時間利用が懸念されています。人によって利用時間と依存の関係は変わるものの、ネットやスマホから離れられなくなると問題です。

長時間利用の結果、依存状態になると学業や仕事にも影響が出ます。学生であれば、成績が下がったり、宿題や課題が提出できなかったりすると、進路にも関わってきますね。

ネットやスマホを長時間触っているので、当然ながら睡眠不足になるでしょう。昼夜が逆転したり、食生活や運動習慣などが乱れたりして、中には不登校になってしまう人もいます。

依存が進むと、家族や友人などよりもネット上の人間関係を重視するようにもなります。家族で出かけたり、友人と遊んだりするよりも、SNSやゲームの世界の交流を優先するんです。

対人関係や成績不振などの悩みから逃れるため、ネットやスマホに依存してしまう人も少なくありません。承認欲求を満たすために利用する人も多いでしょう。

ネットやスマホに依存する人は、使用を禁止されたり、家に忘れたりすると、心が不安定になってしまいます。不安、憂鬱、イライラ感、怒りっぽいといった、ネガティブな感情が起こります。

ースマートフォン依存には、どういった特徴があるのでしょうか

スマホは日常生活への侵入性が非常に高いデバイスです。持ち運びが容易で常に携帯できます。

電車やバスでの移動中、学校や仕事の休憩時間、就寝前のベッドの中でも触れますね。食事中や入浴中でもSNSやゲームをチェックできます。「ながらスマホ」が問題になっていますが、歩きながらスマホを見ている人もいますね。

このようにして、毎日のようにSNSやゲームなどをチェックしていると、それが習慣化してしまいます。スマホが体の一部のようになり、常に手元にないと不安になってしまうようです。

ただし、いくら長時間利用していても、依存と断言できない面もあります。本人や周囲に問題が起こっていない、問題と認識されていないのであれば、依存とは認識されません。

スマホゲームは大学生のコミュニケーションツールでもある

ー先生は論文「パーソナリティ特性がスマートフォンゲーム依存傾向に及ぼす影響」で、どのような調査をされたのでしょうか?

実は、私はインターネットやゲームに詳しくないんです(笑)。研究室にゲームに詳しい学生がいて、いろいろと教えてもらいながら一緒に調査を進めました。

スマホゲームのユーザーは、気軽に楽しむカジュアル層が多いと言われています。ゲームやeスポーツの市場調査・分析をしているNewzoo、『ファミ通ゲーム白書』などの報告によれば、ゲーム市場の中でスマホゲームの占める割合が最大であるそうです。

私は、スマホゲームは多くの人に影響を与えているはずだから、依存が深刻であれば見逃すことはできないと考えました。そして、スマホゲームの利用とユーザー心理の関係を調べるため、性格(パーソナリティ)に着目しました。

調査に協力してくれたのは431名の北星学園大学生です。心理学の講義で、質問紙に答えてもらう形でデータを収集しました。

ー調査結果によると、スマホゲームの利用者は男性が多かったようですね

431名中、スマホゲームをすると回答したのは228名です。うち男性は140名、女性は88名でした。

PCゲームも含めたインターネットゲームの依存は、男性が女性の2倍の確率で陥りやすいと言われています。

ゲームの機能や趣向が、男性に魅力的に映ることが背景にあると推測できます。対戦ゲームや成績を競うゲーム、女性の性的イメージを強調したキャラクターなど、制作側が男性を意識したサービスが多い印象です。

最近では、女性の趣向に合わせたゲームも増えてきているので、男女差は埋まってくるでしょう。

ー調査に参加した大学生のうち、半数以上がスマホゲームをしていたのですね

今や、大学生のほとんどがスマホを所持しています。無料で遊べるスマホゲームは、学生にとって手軽に楽しめるサービスです。日常生活の一部になっているのかもしれません。

キャンパス内で男子学生を観察していると、しばしば友人同士で楽しそうにスマホゲームの話をしている場面に出会います。大学は授業ごとに教室を移動して、受講生の顔ぶれも変わります。常に一緒に行動しないからこそ、ゲームを通じて友好を深めているのかもしれません。

男子学生が集まってスマホゲームをするのは、会話を続けなくても同じ時間を共有できるからではないでしょうか。コミュニケーションツールになっているのだと思います。

ーゲーム以外のツールに目を向ければ、女性の方がスマホを利用していそうな気もします

そうですね。ゲームだけでなくSNSや動画も対象にすると、女性のスマートフォン依存得点が高いという報告もあります。

LINEやTwitter、Instagramなどのコミュニケーションツールは、女性の方がのめり込みやすいのかもしれません。

開放性・外向性の高い人はスマホゲーム依存に注意!

ー先生の調査では、スマートフォンゲーム依存とパーソナリティにどのような関係が見られましたか?

調査に使用したのは「Big Five 尺度」です。人種に関係なく全員が持ち合わせている5つの特性(神経症傾向・外向性・開放性・調和性・誠実性)から個人のパーソナリティをとらえる、ビッグファイブ理論をもとに開発されました。

5つの特性のうち「開放性」は、好奇心旺盛で、興味の幅が広い人たちのことを指します。開放性の高い人たちは、システムやキャラクターデザインなどの娯楽要素に惹かれやすく、自分の趣向に合ったスマホゲームがあるとプレイするようです。

ゲームを進めていくと、仲間が増えていったり、ランキングで上位を目指すイベントが起こったり、レアな道具が手に入ったりします。ゲーム世界や仲間から承認を得る機会も増えるわけです。

上位にランクインしたり、レアな道具を手に入れるためには、攻略方法やアイテムなどの知識を絶えず学習する必要が出てきます。学習を重ねてゲームに詳しくなるほど、レベルも上がり、仲間から認められ、獲得報酬も多くなります。

承認を得る機会を求めてゲームにのめり込んでいけば、しぜんと長時間プレイになりますよね。結果スマホゲーム依存に向かってしまうことになります。

ースマホゲームに依存するのは、開放性の高い人たちだけなのでしょうか

調査では、「外向性」の高い人たちもスマートフォンゲーム依存になる可能性があることがわかりました。陽気で社交的な人たちで、今風に例えると「陽キャ」です。

外向性の高い人たちは、友人と一緒にスマホゲームを楽しみます。開放性の高い人たちが自身の趣向に合わせてゲームを選ぶのとは異なり、外向性の高い人は友人がやっているアプリをダウンロードする傾向にあると考えられます。

外向性の高い人は、友人に付き合ってゲームを進めます。相手に合わせてプレイするので、授業中に先生の目を盗んでスマホを触ったり、夜中まで遊んだりするわけです。

スマホはいつでも持ち運んでいるデバイスです。だからこそ、外出先で友人と楽しむのにスマホゲームは適しています。

外向性の高い人は、周囲の環境に影響されてスマホゲーム依存に陥る可能性があるので注意したいですね。

スマホゲームに依存すると起こる5つの問題

ースマホゲームに依存すると、どのような問題が発生するのでしょうか?

私たちの研究チームで、新しいスマホゲーム依存傾向尺度を作成しています。その中でわかった、スマホゲーム依存を特徴づける5つの問題があります。

具体的には以下の5つです。

  1. 生活への悪影響
  2. 思考のとらわれ
  3. 現実逃避
  4. 過課金
  5. 長時間利用による睡眠の問題

まず、スマホゲームが原因で勉強や仕事がおろそかになり、成績や能率が低下する「生活への悪影響」があります。また、スマホゲームを優先することで現実の人間関係が悪くなり、家族や友人との間でトラブルが発生するといったことも起こり得るでしょう。

「思考のとらわれ」は、スマホゲームのことばかり常に考えてしまう状態を指します。ゲームにログインできないと心配や不安を感じて、落ち着きません。

日常生活の心配事から気をそらすため、スマホゲームに夢中になる「現実逃避」も問題です。結果として心配事の解決が先送りになってしまえば、自体の悪化を招きかねません。

課金はスマホゲームの最たる特徴と言えるかもしれません。例えば、欲しいアイテムやキャラクターが出るまでガチャを回し、気付けば「過課金」状態になって後悔してしまいます。

べッドの中に持ち込めるスマホは、「長時間利用による睡眠の問題」も招きやすいと言えるでしょう。ゲーム依存では必ず起こると言われている問題で、スマホゲームにおいても例外ではありません。

どんな性格(パーソナリティ)であっても、スマホゲームに依存してしまえば、これらの問題を抱えることになります。

ー依存に陥りやすい年齢というのはありますか?

スマホを自由に使える環境下にあれば、どんな年齢であってもスマホゲームに依存してしまう危険はあります。ただし、とりわけ障害のリスクが高いのは中高生です。

中高生は、思春期特有の悩みによって精神的に不安定になりやすいものです。

クラスメイト・担任・保護者との関係、成績・進路のことなど、悩みは尽きません。また、ささいなことで落ち込んだり、イライラしたりもします。

こうした直視したくない悩みから逃避したり、現実では得られない承認欲求を求めたりして、スマホゲームに長時間を費やせば、依存につながる可能性も高くなるでしょう。他にも、友人と付き合って深夜までスマホゲームをしていると、勉強時間が減って成績が落ちてしまう危険もあります。

スマホゲームに依存しないためにどうすればいいか?

ースマホゲームに依存しないために、私たちはどうすればいいのでしょうか

「幸せにスマホゲームを楽しむ」ためには、ゲームと適切な付き合いをしていくことが大事です。それには、先ほどあげた5つの問題(生活への悪影響・思考のとらわれ・現実逃避・過課金・長時間利用による睡眠の問題)への対策を考える必要があります。

例えば、勉強や部活動、将来の進路などの現実に目を向け、具体的な目標をもって努力することで「生活への悪影響」は避けられます。ただ目標を追うだけではつらいと思うので、自己効力感を高め、自分の可能性を認知できるようになるといいでしょう。

自己効力感を高めるため、具体的な目標を書き出してみませんか?

やりたいこと・やるべきことを書き出すのですが、その際に「~する」「~できる」といった肯定文や可能表現を用います。大切なのは目標を書き出すことではなく、書き出した目標を「達成できる」と信じ込むことです。

未来のことは誰にもわからないのですから、自信に根拠がなくてもいいのです。自分はできると信じることが大事ですよ。

どうしても自信が持てないのであれば、小さな成功体験から始めてみるものいいでしょう。部屋の片付けでも、宿題でも、誰かに連絡をするのでも何でもいいので、「達成できた」体験を重ねていってください。

また、ゲームの世界に現実逃避するのではなく、信頼できる良き理解者に相談することも大事です。保護者を信頼していても、中には相談しにくい内容があるかもしれません。そんな時は、学校の先生や友人、スクールカウンセラーに相談してみましょう。

ー先生はスクールカウンセラーもご経験されていますが、相談しやすい関係性を築くため、子どもとどのようなコミュニケーションを取るといいでしょうか

子どもと関わる時には、「心の窓(channel of mind)」を開くことが大事です。子どもに純粋な関心を寄せ、悩みを真剣に聞きましょう。

その子がゲームに没頭しているなら、まずはそのゲームの魅力や面白さをたずねてみてください。ゲームについて詳しく話してくれたら、子どもが心の窓を開いてくれた合図です。

話に耳を傾けてくれたことで、子どもは「相手が自分を受け入れてくれた」と感じます。ゲームの中だけでなく、現実世界にも自分を受け入れてくれる存在がいると気付くことができれば、依存度は下がっていくはずです。

「幸せにゲームを楽しむ」ため、勉強や部活動、仕事に目標を持ち、日々努力し、家族や友人関係を大切にする中で、余暇の楽しみや友人との円満な交流のためにスマホゲームを利用しましょう。

ゲーム依存についてもっと知りたい人へ

米国精神医学会が発行する DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第 5 版)において、「イ ンターネットゲーム障害(Internet Gaming Disorder)」の研究用診断基準が 2013 年に公開さ れています。

また、世界保健機関(WHO)が作成する ICD-11(国際疾病分類第 11 版)にお いて、オンラインゲームなどのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害(Gaming Disorder)」が依存症の一種として正式に認定されています。